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『アテネの学堂(Scuola d'Atene)』

ラファエロ・サンツィオ Raphael Santi(1509-10年)

ルネッサンス時代、教皇ユリウス2世により、ヴァティカン宮殿署名の間の壁画作製を命ぜられたRaphael Santiが、「理性」をテーマに描いたフレスコ画です。古代ギリシャ時代を中心に古今東西の理性の象徴であった代表的哲学者、科学者約50名がアテネの理想の学舎に集う様を独特の遠近法を用いて表現しており、いわばルネッサンス時代までの「気品の泉源知徳の模範の実践者オールスター永久保存版」と言った作品です。まずこの絵の中心に位置し階段の上に立つ主人公と目される二人、左がプラトンで右がアリストテレスです。プラトンから左に目線を移していくと、黄褐色の衣を着て、何事か議論している人物が、問答と分析の哲学者ソクラテス、その議論の相手で鎧を着た人物がアリストテレスの弟子だったアレキサンダー大王です。さらに、左手前で人々に囲まれながら何か数学の定理の解説をしているように見えるのがピタゴラス。その右側、片肘を突いているのが、「万物は流転する」で有名な憂鬱な哲学者ヘラクレイトス、画面中央の石段に座り込んでいるのが樽のディオゲネス(家の代わりに樽に住んだと言われ、ぼろ布1枚とズタ袋1つしかもたず、アレキサンダー大王に欲しい物はと問われた時、日光が遮られるのでそこをどいてくれと答えた無欲を貫いた哲学者)、そして右側手前には、コンパスを持って幾何学の定理を説明している数学者・ユークリッドとその弟子達が描かれています。さらにその右後方の後ろ向きで地球儀を持っているのは、宇宙の中心に地球があると説いた2世紀の天文学者プトレマイオス、その向かい側で天球儀を持っているのがゾロアスター教の開祖ツァラスツトラです。Raphaelはこの壮大かつ深遠なテーマの壁画作製に当たり、各々の人物のモデルには彼の周囲にいた高位聖職者や尊敬する芸術家達を配したと言われています。主人公のプラトンには、レオナルド・ダ・ビンチを、アリストテレスには、ミケランジェロをモデルとし、人類の英知を代表する偉大な哲学者二人にルネッサンス時代の象徴である偉大な芸術家二人を重ね合わせて描写することで、理性の象徴としてルネッサンス芸術の存在をアピールしています。さらにこの二人の中心人物を空間的には、遠近法により我々から最も遠くにいるように描くことで、我々の視線が中央に引き込まれていき、時空を越えて理性の空間の中に配置された登場人物達の美しき調和と秩序に感動することになるわけです。

さて理想主義を掲げたプラトンは天上を指差し、実践的哲学を説いたアリストテレスは手を水平に差し出し、手のひらを地上に向けています。アリストテレスは、「体は魂(プシュケー)の為にある」とする目的論を唱え、魂の在処は心臓であるとし、脳は粘液を分泌して心臓を冷却すると考えました。従って彼は魂の在処である心臓はけっして手を出してはならぬと論じました。アリストテレスから2000数百年の年月を経て、1967年12月3日南アフリカ共和国のケープタウンで世界初の心臓移植手術が行われました。人類の科学の進歩故にたどりついた心臓移植手術、そのすぐ後に発表された執刀医であるChristian Barnard博士(この症例報告書をPDF形式で閲覧が可能になりましたのでお読みください)の症例報告を今月は掲載しました。心臓外科手術の歴史的1ページとなった記録をアテネの学堂に集ったオールスター達を見ながらお楽しみ下さい。