今月のサイエンス
Alzheimers Dement.
2025 Jun;21(6):e70195. doi: 10.1002/alz.70195.
Shin Kurose, Sho Moriguchi, Manabu Kubota, Kenji Tagai, Yuki Momota, Masanori Ichihashi, Yasunori Sano, Hironobu Endo, Kosei Hirata, Yuko Kataoka, Ryoji Goto, Yuki Mashima, Yasuharu Yamamoto, Hisaomi Suzuki, Shinichiro Nakajima, Masashi Mizutani, Terunori Sano, Kazunori Kawamura, Ming-Rong Zhang, Harutsugu Tatebe, Takahiko Tokuda, Mitsumoto Onaya, Masaru Mimura, Naruhiko Sahara, Hidehiko Takahashi, Hiroyuki Uchida, Masaki Takao, Jeffrey H Meyer, Makoto Higuchi, Keisuke Takahata
近年疫学研究から、中高年で発症する気分障害が認知症の前段階である可能性が指摘されています。多くの認知症ではタウやアミロイドβなどの異常蓄積が関与しますが、これらが気分障害にどう影響するかは不明でした。本研究では、タウ病変を検出できるPET薬剤florzolotau(18F)を用いて、40歳以降に発症したうつ病・双極性障害の患者のタウ病変を調べました。その結果、性別・年齢・全般的認知機能を考慮しても、同年代の健常者と比べ患者群はタウ病変の陽性率が約4.8倍高いことが分かりました。さらに、国立精神・神経医療研究センターのブレインバンクのデータを用いた検討により、40歳以降にうつ状態または躁状態を初発した患者ではタウ病変を持つ割合が高いこと、気分症状が認知機能障害に平均7年先行することが確認されました。これらにより、中高齢発症の気分障害患者の一部では、タウ病変が認知症発症前から既に蓄積していることを生体で確認するとともに、死後脳データからも裏付けがなされました。中高齢発症の気分障害に対する診療において、分子イメージングを用いた客観的なバイオマーカーに基づく診断・治療の必要性を示す重要な知見といえます。
(精神・神経科学教室 黒瀬 心 94回、高畑圭輔 82回)
これは精神神経科による、分子イメージングおよび剖検脳解析を駆使して、加齢に伴って発症する気分障害がアルツハイマー病やタウオパチーといった神経変性疾患の前駆症状である可能性を初めて包括的に示した意義深い報告である。18F-florzolotauを用いたPET解析では、気分障害の患者において健常対照と比較して有意に高頻度でタウおよびアミロイドβの蓄積が確認され、さらに剖検脳では、前頭葉を中心とした多様なタウパターンが明らかとなった。特筆すべきは、認知症の臨床的発症前から精神症状が先行する例が存在し、その背景に多様なタウ病理が関与している可能性を実証した点である。これにより、気分障害が単なる精神疾患ではなく、神経変性プロセスの一側面である可能性が提起され、早期診断や治療への応用が期待される。今後は、タウPETを用いた臨床介入によって、病態進行の縦断的な過程を明らかにすることが重要である。
(整形外科 名越慈人 81回)