今月のサイエンス
Nat Commun.
2025 Apr 28;16(1):3958. doi: 10.1038/s41467-025-59297-x.
Nishimura ES, Hishikawa A, Nakamichi R, Akashio R, Chikuma S, Hashiguchi A, Yoshimoto N, Hama EY, Maruki T, Itoh W, Yamaguchi S, Yoshino J, Itoh H, Hayashi K.
慢性腎臓病患者数は人口の高齢化を背景に世界的に増加傾向にあり、心血管疾患のみならず全死亡リスクの上昇をもたらすことで問題となっています。本研究では、腎障害進展の共通経路に関与する近位尿細管上皮細胞障害に注目しました。私達のグループは以前に、近位尿細管上皮細胞における二本鎖DNA損傷の程度は腎予後と関連することを報告しましたが、本研究では、近位尿細管上皮細胞のDNA損傷が、DNAメチル化変化を介した炎症性単球・マクロファージの活性化を介して、体重減少、脂肪重量の減少、肝臓や心臓への異所性脂肪沈着、耐糖能異常など、代謝老化に類似した全身の代謝変容を引き起こすことを示しました。本研究の結果は、昨今注目されている心腎代謝連関の病態理解に新しい側面を提示し、腎近位尿細管上皮細胞DNA損傷を評価することにより、全身代謝老化の進行を見積もり、心血管合併症をはじめとした他臓器障害の予測につながる可能性の提示とともに、末梢血DNAメチル化をターゲットとした腎臓病進行および合併症発症に対する新たな予防・治療戦略の開発に資する可能性を期待しています。
(百寿総合研究センター 新井康通)
腎臓内分泌代謝内科の西村先生・菱川先生・中道先生・林先生らによる『近位尿細管上皮細胞におけるDNA損傷が全身の代謝老化を起こす仕組み』に関する研究成果である。ヒトの体において、臓器同士が互いに大きく影響し合っていることはご存知の通りである。しかし、現象はなんとなく理解できても、その仕組みは非常に複雑で、紐解くことは極めて困難である。今回の研究では、近位尿細管上皮細胞のDNA損傷が脂肪肝や耐糖能異常をはじめとする代謝の老化を引き起こすが、それらを繋ぐメカニズムとして末梢血のメチル化低下を介した単球やマクロファージの活性化であることを明らかにしている。尿細管障害と全身の代謝老化を繋ぐメカニズムをスマートに示しており、大変感銘を受けた。臓器連関の仕組みを理解することで、臓器同士の悪循環を断ち切るような治療法を確立することができる可能性があり、今後の新たな展開に注目していきたい。
(藤田医科大学東京先端医療研究センター 遠山周吾)